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『東行前日記』 連載⑤
【2012/08/22 20:04】 エッセイ
『東行前日記』⑤

十九日(安政六年五月)

 『宗族に示す書』
吾が宗祖の行、吾れ詳かにするに及ばず、子の行、吾れ未だ知る能はず。謹んで吾が父母伯淑を觀るに、忠厚勤儉を以て本と為す。吾れ竊かに祖母の風を仰ぐ、蓋し由あり。今吾が兄弟行漸く将に泰者の風を萌さんとす、誠に惧るべきなり。而して其の忠厚を存する者は兄伯教に若くはなし。その勤儉を存する者は妹千代・従兄弟毅甫に若くはなし。為之兄は兄弟中の長者、敬せざるべからず。矩方の如きは一鴟梟なり、然れども亦嘗て泮桑を食ふ。時に或は好音あり、況や其の将に死せんとする、其の言哀しく且つ善きをや。群弟群姪、宜しく愼んで之れを聽き、永く後人に傳ふべし。
【用語】
宗族 = 本家と分家と一族。
宗素= 一家一門の先祖。
泰者の風を萌さん = 贅沢をすること。
兄伯教 = 実兄梅太郎。伯教はそのあざな。
毅甫 = 叔父玉木文之進の嫡男・玉木彦介。
為之兄 = 従兄・高須為之進。
松陰正装画像



讀餘雜抄に跋す
此の十冊は素と自ら觀るに便す、他人之れを觀るも解すべからざるり。然れども平生の苦心は全て茲に在り。文を作り、事を論ずるも、皆此の冊より出ず。今謹んで彝堂君に呈す。村君これを家藏に充てて可なり。
【用語】
讀餘雜抄 = 定本全集第八巻にその抄要が記載されている。安政元年以後東行前までに幽室又は獄中で読んだ諸書よりの抄録、及び短評を加えた雑録。
彝堂君 = 小田村伊之助。松陰の妹婿。


   ○
五車韻瑞に題す
此の書二十五巻、字典四十巻、余これを彝堂村君に借ること前後六年、再び携えて獄に上る。平生書を讀むには力を字典に得、而して詩を作るには力を此の書に得。此の書の功、字典に比して更に多し、最も寶とすべきなり。今、余東行す、復た此くの若き大部を携ふるを得ず、逐冊検査してこれを彝堂に返すと云ふ。
【用語】
五車韻瑞 = 明の凌稚隆編。韻によって引く成語字引。百六十巻。
逐冊(ちくさつ) = 一冊づつ。


   ○
楫取素彦24.4.24


彝堂村君に與ふ
子揖・無窮は要駕策の議、僕と合はず、今其の(顔)色を觀るに猶ほ前事を以て嫌を為すものに似たり、何ぞ松陰を窺うことの淺きや。夫れ朋友は猶ほ兄弟のごとし。二生既にに兄を以て我れを敬ひ、我れ固より弟を以て之れを愛せり。況や無窮の才、子揖の氣、豈に其れ得易しとして輙く之れを棄てんや。兄弟は小忿ありと雖も、遂に大義を害せざるなり。老幸に明かに此の意を二生に傅へよ。至嘱至嘱。
【用語】
子揖・無窮 = 岡部富太郎・松浦亀太郎(松洞)
嫌 = 快く思わぬこと。


   ○
  作間子大に答ふ
四海皆王土    四海みな王土、
兆民仰太陽    兆民、太陽を仰ぐ。
歸期君勿問    歸期、君問ふなかれ、
到處講尊攘    到る處尊攘を講ぜん。

【用語】
作間子大 = 後の寺島忠三郎。村塾生。禁門の変で戦死。
兆民 = 多くの人民。万民。
尊攘 = 尊王攘夷の略。

明倫館


   ○
  藤野・瀬能・阿座上に與ふ
子大至り、具さに三生及び林榮の讀書頗る進むことの状を語る。僕が喜び知るべきなり。男兒斯の世に生れて、酔生夢死、一として稱道すべきものなければ、啻に君父に辜負するのみならず、将に何を以て天地に俯仰せんとするや。今僕将に東に往かんとす、歸來期なく、復た諸生を見るべからず。諸生厚く自ら淬勵し、忠孝を天地に立てよ、乃ち學ぶ所に負かざるなり。目今吾が黨頗る志士あり、吾れの去る、未だ悲しむに足らざるなり。
【用語】
藤野・瀬能・阿座上 = 藤野荒次郎・瀬能百合熊・阿座上正蔵。何れも松陰の兵學門下であり、又村塾生であった。
林榮 = 未詳。
稱道 = 褒め称える。
辜負(こふ) = そむく。
天地 = 『孟子』尽心上篇第二十章「仰不愧於天、府不作於人」を踏まえている。
淬勵(さいれい) = 刻苦勉励すること。

   ○
嚴光の詩に跋す
右、嚴子陵の詩、録して天野清三郎に示す。余、曾て子陵の志は天下第一流に在りしことを論ず。但鄧・桓諸人の為に先鞭を著けられ、身其の下に立つを欲せず、枉げて加脚の一著を為せるのみ。清三(郎)は奇識あり、余因って此れを示し、且つ曰く、子、宜しく子陵以上の人となるべしと。嗚呼、吾れ此れより去る、清三の後來果して如何を見ること能はざるなり。
【用語】
嚴光 = 後漢の人。後漢の清節の士は、この人より興る。故事による。
鄧・桓 = 鄧兎と桓栄。共に光武帝に信任され、諸侯に任ぜられる。
先鞭を著けられ = 先に功名を立てられ。
加脚の一著を為せる = 光武帝の腹上に足を置くという著名な事柄。

松下村塾24.4.25



  村士毅に與ふ
狂囚護送の事、行府蓋し定議あり、國府の議能く移す所に非ず。況や書生の筆舌、能く其の萬の一を轉廻せんや。且つ狂囚縦令人より棄てられるとも、安んぞ天より弔まれざらん。
天の祐くるところ、人安んぞ之れを害せんや。老兄願はくは明かに此の意を國府に通じ、且つ諸友を諭し、復た狂囚を以て念慮と為すことなからしめよ。是れ僕明かに見る所ありて之れを言ふ、飾辭に非ざるなり。疑ふなかれ、疑ふなかれ。


【用語】
村士毅 = 小田村伊之助。松陰の妹婿。
狂囚 = 松陰自身のことを指す。
國府 = 正しくは行相府。江戸詰の長州藩政府、これに対して萩にある政府を國相府
又は國府という。
飾辭 = 偽り飾ったことば。


    ○
村塾の年少中最も讀書を好む者は馬島甫仙に若くはなし、吾れ獄に投じて來、一書も寄せらるるなし。しかれども我が心中遂に此の生を忘るる能はざるなり。
 故に贈詩の中、獨り甫仙の韻に次して以て諸子に答ふ
離合休霑男子巾    離合もて霑すことを休めよ男子の巾(きぬ)、
一囘用猛一囘新    一囘猛を用ふれば一囘より新たなり。
吾州我去何加損    吾州我去るも何ぞ損を加へん、
松下陰深更有人    松下陰深きところ更に人あり。


【用語】
馬島甫仙 = 塾生。医家に生れ当時十六歳、松陰の遺稿整理に当った。二十八歳で病没。
韻に次して = 後出。
離合もて霑すことを休めよ男子の巾 = 会うとか別れるとかで男子たる者は涙を流して手拭きを濡らすことはやめよう。
一囘用猛 = 松陰は二十一回猛士と自称。
吾州 = 長州。
松下陰深更有人 = 松下村塾を指す。

※この「東行前日記」を筆写していて、つくづく吉田松陰という人物は誠実な人であることがわかる。
さぞかし、内心的には辛いものがよぎり続けたに違いない。
にもかかわらず、門下生に對して、懇切丁寧な「送序」を書き与えている。
自らの「東行」が、期限もなく、帰郷出来る確かな裏付けもない、不安な行く末に思いを致しながら、最後の最期まで教師であり続けた。
心ある人々は、松陰のこうした生き方に対して、感服したに違いない。その強い「精神力」のみならず、最後まで門下生に対する愛情を失わず、将来を託そうとする人となりに、敬服あるのみである。
こうした人生態度に徹して、自己の信念を貫き通した松陰の生き方から、日本人は多くのことを学びとらなければなるまい。現代の国会議員に、言い聞かせたいと思うのは、現代国民共通の思いであろう。

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