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『松陰の妹婿・小田村伊之助』
【2012/11/02 21:51】 エッセイ
『小田村伊之助』(楫取素彦) 
(関係人物略伝、吉田松陰全集第9巻:494頁)収載分より


吉田松陰を陰で支えた人物に「小田村伊之助」という学者がいる。
江戸在勤が長く、松陰は松下村塾を主催するに当たり彼を教授陣の一人として、帰国を待ちわびた。
松陰が江戸遊学中に妹・壽と婚姻しており、この時に松陰は立ち会っていなく、書簡でこの慶事を知った。
松陰は篤くこの人物を信頼し、松下村塾はこの妹婿に運営を委ねる積りだった。

『杉家本・吉田松陰』


学者肌のため、政治的に脚光を浴びる機会は少なかったが、藩内の「革新派」と「俗論派」の内訌で、松陰と同じ野山獄投獄も経験する。

この内訌戦(長州では元治の内訌と呼称)で兄「松島剛藏」は、松陰の修行時代の師であった「山田亦介」と共に恭順派の為に斬殺され「野山十一烈士」と言われた。小田村は生き延びて、維新後國家の重鎮の一人として活躍する機会を得た。
先妻の壽亡きあと、母「たき」の勧めに従い、久坂玄瑞に嫁いだ文が、再婚せずにいたことから再婚。松陰の妹二人と婚姻という深い縁があった人物である。

安政六年五月松陰が江戸召喚を受けた時に、小田村に送った『至誠にして動かざるは未だ之れ有らざるなり』は大変有名である。元来は『孟子』の言葉だが、松陰はこの言葉を座右の銘として生涯を送ったほど大切にしていたのである。このことは、松陰全集の『東行前日記』に収載されている。


小田村伊之助



名は哲、諱は希哲(ひさよし)、字は士毅、通称を久米次郎又は内藏次郎といひ、小田村氏の養嗣となるに及び伊之助と改め、後に文助・素太郎といひ、慶應三年九月楫取素彦と改む。號は耕堂・彝堂(いどう)・晩稼・棋山・不如帰耕堂等あり。

文政十二年三月十五日萩魚棚沖町藩醫松島瑞蟠の次男として生る。松島瑞益(剛蔵)の弟にして、小倉健作の兄なり。小田村家の養子となれるは天保十一年にして、その家は世々儒官なり。

弘化元年明倫館(長州藩藩校)に入り、同四年十九歳にして司典助役兼助講たり。

二十二歳大番役として江戸藩邸に勤め、安積良齋・佐藤一齋に教を受く。
松陰は嘉永四年江戸に遊学して小田村と相識るに至り、後同六年松陰の妹壽が小田村に嫁ぐや、両人の関係更に密接となり、爾後公私ともに骨肉も及ばざるものあるに至れり。

松陰曾て小田村に感謝して曰く、「吾れ曾て三たび罪を獲(亡命・入海・再獄)、君皆其の間に周旋す。吾れ再び野山獄に繋がるるに及びて君力を致す最も多し・・・・・・」と。

概ねこの類なり。安政二年四月小田村は明倫館舎長書紀兼講師見習となりて令名あり。翌三年二月相模出衛を命ぜられ、同四年四月歸國、明倫館都講兼助講となる。

この頃より松陰の教育事業は漸く盛んになり、翌五年十一月松下塾閉鎖まで、小田村は直接關係なきも、松陰の信頼篤く、始めはその計画に参与し、時々過訪して間接の援助を與へ塾生とも相識るに至る。

而して松陰の激論を拘制しつつ相敬愛せるところは二人の交の特色なり。松陰投獄後塾生指導の任に膺(あた)り、國事逼るや又塾政を顧ること能はざりしも、明治以後杉民治と共に一門の中心となりて松陰の顕彰に尽力せしこと多大なり。

至誠 松陰


萬延元年山口講習堂及び三田尻越氏塾に教へ、文久元年以後専ら藩主に扈従して、江戸・京都・防長の間を東奔西走す。元治元年十二月、藩の恭順派のために野山獄に投ぜられ、翌慶應元年二月出獄。

五月には藩命により當時大宰府滞在中の五卿を訪ひ、四境戦争の時は、廣島へ出張の幕軍總督への正使宍戸備後介(山県半藏)に副使たり。

慶應三年冬長藩兵上京の命を受くるや緒隊參謀として出征し、公卿諸藩の間に周旋し、遂に伏見鳥羽の戰に於て江戸幕府の死命を制するに至らしめたり。

維新後一旦歸國して自藩に出仕、五年出でて足柄縣參事となり、累進して群馬縣令となり、その後元老院議官・高等法院陪席裁判官・貴族院議員・宮中顧問官等歴任し、又貞宮多喜子内親王御養育主任を命ぜられしことあり。

これより先き明治二十年男爵を授けらる。大正元年八月十四日歿す、享年八十四。特旨を以て正二位勳一等に敍せらる。

松陰の妹・寿


妻壽よく家を守り、二兒を教育して夫をして後顧の憂なからしめ、夫の入獄時又は四境戰争時の如きは烈婦として令名を馳せたり。惜しいかな晩年健康勝れず、明治十四年遂に夫に先だちて歿す、年四十三。後妹美和入りて嫁す。
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