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妹・千代の「回想の松陰」②
【2014/03/03 14:25】 エッセイ
『家庭の人としての吉田松陰』②

大正二年一月     兒玉芳子

前回に引き続いて、妹の千代の松陰の回想を記します。

○ 生別死別を兼ぬ
それは、萩のずっと端れに松の木が一本御座います。昔は江戸へ行くといふことは、今の外國へ行くよりももっと大層なことに考へまして、家族は水杯をして別れたと申す位で御座いますから、誰れでも此の松の木の所まで参りますと、アアこれがモウ自分の國はづれである、これからは他國の土を踏むのだと思って、ホロリと致すさうで、それで此の松を昔から涙松と称へて居ります。兄も其所までまいりますと、
 かへらじと思ひ定めし旅なれば一しほぬるる涙松かな
と詠んだといふのでも分ります。
これはの後に門弟から聞きましたので御座います。また門弟達にはたとへ松陰の肉體は死んで仕舞ふとも魂魄はこの世に留って、お前達の身に添うて、必ず私の此の精神を貫くと、申し聞かせて居ったと申すことで御座います。

涙松


○ 兄は、安政六年の十月二十七日に、小塚原の露と消えたので御座いまして、年は丁度三十歳で御座いました。これも後に首を斬られたといふ便りを得まして、思ひ合したので御座いますが、十月の二十日に斬罪に處するというふ沙汰が御座いましたさうで、丁度二十六日の晩、卽ち着られる前夜のことで御座います。國では長兄が病氣を致して居りましたので、母が枕邊で看護を致して居りまして、眠るともなく、うつうつと致しましたところ、兄の松陰が、前年長崎から歸って参りましたときのやうな、それはそれは壯健な樣子で、さうして如何にも晴れやかな顔をして、母の前に坐ったそうで御座います。母は喜んで「オゝ」と申したはずみに眼が覺めますと、兄の姿はなく、全く夢であったことが分りました。
自分では不思議ではあるが、ただ夢と思ひますから、翌日の夕方になるまで黙って居ったさうで御座いますが、夕方に皆が寄り合ひましたから、思ひ出して話をすると、父も同じ時刻に床に入って居りましたが、松陰が泰然自若として、少しも取り亂した樣もなく、實に見事にスパリと首を刎ねられた所を夢に見たと申すので御座いました。父母は勿論のこと、皆不思議なこともあるものだと、話し合って居りましたが、その後いよいよ悲しい報せを聞いた時に、兄の日頃の孝心から、別れます時に、母が今一度無事な顔を見せてくれよと申し、必ずお見せ申しますと云ひました其の言葉を果す為に、母にはさうした達者な顔を見せ、父には卑怯の樣もせず斯くして立派に斬られました、と其の様子を見せて、兩親を安心させたものであらうと、打しめって語り合ひました。
 親おもふ心にまさる親ごころ今日のおとづれ何ときくらん
といふ辭世を詠みましたのも、この夜であらうと思はれます。
『杉家本・吉田松陰』


肉親の情としては、兄が幕府の調べのあった時に、尋常な答えだけでおきましたならば、よし罪になるに致しましても、まづ遠島位であらうとは皆様もお考へになって居られたさうで御座いますのに、ああいふ氣質の人ですから、何も彼も怯めず臆すせず、考へて居ることをきっぱり申し立てました為に、終に殺されて仕舞ひました。人間の壽命のことですから、何とも申されは致しませんが、私でさへ斯うして今日も壯健で居られるので御座いますから、兄も殺されたりなど致さなければ、或は今も生きて居たかもしれないなどと、折ふしは考へることも御座います。併しいふべきことを、きっぱり申し立てた處が、松陰の松陰たる處であらうと存じます。

この長姉の千代に回想を願ったのは、千代が八十代の年齢であるが、記憶がせんめいであると同時に、家族だけが知りうる記事となっていて、興味深い記事となっている。松陰の死と両親の同じ時の「夢に出てくる」くだりは、親子の情愛が偲ばれて胸が打たれる思いがする。

次回は、門下生だった「横山幾太」の松陰に関する随筆を二度に分けて書いてみたい。妹の千代の回想と同じく、全集の第十巻に収載されている。身近に接した門下生の直筆だけに、人間吉田松陰を知るには格好の記事である。
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